Medical Service

臨床

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脳腫瘍

脳神経外科

脳腫瘍は小児から高齢者まであらゆる年代の方が罹患する可能性のある疾患です。脳腫瘍と一口に言っても、発生する部位や悪性度など様々なタイプのものが存在し、100種類以上あります。代表的なものとしては、脳を覆う膜から発生する髄膜腫や、ホルモンの分泌をコントロールしている下垂体から発生する下垂体腺腫、神経膠細胞という脳を構成している細胞から発生する神経膠腫などがあり、肺癌など他臓器の癌が脳に転移を起こすこともあります(転移性脳腫瘍)。治療は手術による摘出、化学療法、放射線治療が主体となり、診断に応じて最も適切なものを組み合わせていくこととなります。

当科では豊富な経験を有する複数人の医師を中心に、難易度の高い手術に関しても安全に治療を行っています。手術中、ナビゲーションシステムを用いて、正確に腫瘍の位置を同定し、さらに安全性を担保するために神経の働きを監視しながら行っています。また、覚醒下手術も行っており、開頭手術中に麻酔から覚醒をさせることで、言葉の機能や手足の動きに障害がないか確認しています。腫瘍の部位によっては、従来用いられてきた手術用顕微鏡以外にも、神経内視鏡や外視鏡を用いた手術も積極的に取り入れ、より広い視野で安全な操作が可能です。術中の出血を抑えるために術前にカテーテルによる塞栓術の併用も行っています。

腫瘍の発生部位や性質によっては全摘出が困難な場合や再発を生じることもあり、最近では、摘出した腫瘍の遺伝子変異を調べ、それに応じた個別化医療をご提案できる場合があり、当科でも積極的に行っています。

併せて当科では悪性脳腫瘍に対する基礎的研究も行ない、今後の新たな治療法の開発を目指しています。

脳腫瘍の治療は、主に「手術」「放射線治療」「化学療法」を軸にして行われます。脳腫瘍は稀なものも含めると、全部で100を超える非常に多くの種類がありますが、治療を要する脳腫瘍の多くは「手術」が必要となります。この「手術」の目的は、腫瘍そのものを取り除くことはもちろんですが、全摘出ができないような部位でも、腫瘍の病理組織や遺伝子などを調べるために、手術によって腫瘍の採取を行います。正確な診断結果に基づき、放射線科、小児科、病理診断科などと連携して患者さん一人ひとりに合わせた最も適切な治療法をご提案できるように努めています。また、最近では遺伝子診断を積極的に行い、遺伝子変異に応じた個別化医療の提供を行っております。 脳腫瘍手術に特徴的な点ですが、脳腫瘍は正常の脳に染み出すように広がっていくものや、脳の奥深くにできるものが少なくありません。そのため、正常の脳組織や腫瘍の合間を走行する脳神経を温存することが極めて重要となります。

当科では手術にあたり、MRI(fMRI, MRS, DTI等含む)、造影CT、PET、高次脳機能検査などを行い、それらの情報に基づき術前カンファレンスで手術戦略を綿密に検討しています。また、血流が豊富な腫瘍と予想される場合は、必要性を適切に評価した上でカテーテルを使用した腫瘍栄養血管塞栓術をあらかじめ行い、安全に手術に臨めるようにしています。

手術時には、神経ナビゲーションシステム、ロボティクス技術、術中神経モニタリングを駆使し、安全かつ最大限の摘出を得られるようにしており、さらに言語機能領域の近くの腫瘍では覚醒下手術も積極的に行い、確実な脳機能の温存に努めています。摘出操作にあたっては、手術用顕微鏡はもちろんのこと、4K55インチの大画面モニターを使用した内視鏡や外視鏡を用い、ナビゲーション画像とリンクさせて手術室内スタッフ全員で手術状況を共有しながら手術を進めております。ロボティクス技術に関しても進んで取り入れており、正確に摘出範囲を同定することに寄与しています。

他にも最新の技術・機器を日々取り入れ、これまで我々が培ってきた術者技術と融合させて安全かつ最良の治療結果を目指しています。

良性脳腫瘍の代表的な疾患として、1.髄膜腫、2.下垂体腺腫、3.聴神経鞘腫が挙げられます。以下にそれぞれの概要を記載しますが、治療は基本的に外科手術が第一選択となることがほとんどです。術者によって治療成績が大きく異なりますので、手術を受ける際には経験豊富な脳神経外科医に詳しくお話を聞かれることをお勧めします。

  1. 髄膜腫: 脳を包む髄膜(クモ膜の表層細胞)から発生する腫瘍であり、脳腫瘍全国統計では原発性脳腫瘍の30%近くも占め、最近では画像診断の発達と脳ドックの普及により、症状が無くても偶然発見される髄膜腫の患者さんが多く見られるようになりました。脳神経外科医にとっては最も頻繁に目にする脳腫瘍です。治療は、腫瘍の存在部位、大きさ、症状、年齢などで変わってきますが、基本的に手術が第一選択となり全摘出を目指します。腫瘍を全摘して、その発生母地である髄膜や頭蓋骨を処理することにより、治癒が可能です。腫瘍が表面に存在したり、癒着が少ない場合は、手術は比較的容易に行えます。しかし、太い動脈や運動機能に重要な穿通枝などの血管を巻き込んでいる場合、眼球の動きをつかさどる神経が走行する海綿静脈洞内、脳幹に癒着している場合などは、合併症を回避するために、一部残さざるを得ない事があります。そのような場合は、外来で注意深く経過を見守っていきますが、放射線治療が効果的であると判断された場合は、ガンマナイフやサイバーナイフを行っていきます。
  2. 下垂体腺腫: 下垂体は内分泌システムのセンターとして機能しているため、腫瘍の発生によってホルモンの量が調整できず様々な病気が生じることになります。また、視神経が近くに存在するために、視野が狭くなったり、物が見づらくなったりします。このように非常にデリケートな部位であるため、脳神経外科医、内分泌専門医、婦人科、眼科のエキスパートの先生方が共同して治療にあたることが重要になってきます。
  3. 聴神経鞘腫: 聴聴神経は体の平衡感覚をつかさどる前庭神経と聴力をつかさどる蝸牛神経を含んでいますが、ほとんどの聴神経腫瘍は前庭神経(特に下前庭神経)から発生します。通常、難聴や耳鳴りが主な初期症状であり、めまいやふらつきは、腫瘍が比較的大きくなってから出てくることが多いのが特徴です。特に電話が聞き取りづらくなりますが、時に急速に聞こえが悪くなることから突発性難聴と診断されたり、めまいや耳鳴りが強い場合はメニエール病と診断されることもしばしばあります。この腫瘍は、耳の奥の内耳道と呼ばれる頭蓋骨のトンネル内に発生し、巨大化すると脳幹や小脳を圧迫し、まっすぐ歩けなくなるなどの症状が出現します。手術は、脳外科の手術の中でも非常に難しい部類に入りますので、経験豊富な術者を選択することが重要になります。

悪性脳腫瘍は原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍の2つに分けられます。原発性脳腫瘍は頭蓋内組織自体から発生したものを指し、肺癌や乳癌など多臓器の悪性腫瘍が頭蓋内に転移して生じるものが転移性脳腫瘍です。原発性脳腫瘍のうち、代表的な悪性脳腫瘍には神経膠腫(グリオーマ)や中枢神経原発性悪性リンパ腫があります。

運動や感覚などの信号伝達を行う神経細胞(ニューロン)が腫瘍化する事はまれですが、神経細胞の活動を支える神経膠細胞(グリア)が腫瘍化したものがグリオーマです。正常な神経細胞を巻き込み浸潤しながら増殖していくため、様々なモダリティを用いて、最大限の摘出を行った後、化学放射線治療を行います。最近では遺伝子診断により、遺伝子変異に応じた個別化医療の提供が可能な場合があります。

中枢神経原発悪性リンパ腫は頭蓋内に発生する悪性リンパ腫です。脳血管と脳実質の間には血液脳関門があり治療薬を含めた物質の往来に制限があります。そのため血液腫瘍や一般臓器に発生する悪性リンパ腫と中枢神経原発悪性リンパ腫では治療法が異なり区別されます。中枢神経原発悪性リンパ腫が疑われた場合には手術で診断を確定して治療開始していきます。中枢神経原発悪性リンパ腫に対する化学療法や放射線治療は効果的で消失する事もありますが、再発する場合も多く、慎重な経過観察が必要となります。

転移性脳腫瘍の多い原発部位としては肺癌、乳癌、大腸癌の順となっています。近年、新しく登場してきた分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含めた化学療法や、サイバーナイフやガンマナイフといった放射線治療による効果も期待ができます。しかし、腫瘍による正常脳への圧迫が強い場合や、組織診断が必要な場合には手術を行う事があります。原発部位の治療科と連携して患者さん一人ひとりに合わせた最も適切な治療法を選択していきます。

頭蓋底腫瘍とは、頭蓋骨の底部、つまり大脳の底部や脳幹周囲に発生する腫瘍の総称です。これには様々な種類の腫瘍が含まれ、代表的なものとして、髄膜腫、神経鞘腫、グロームス腫瘍、下垂体腫瘍、類上皮腫、上皮腫、脊索腫や軟骨肉腫、軟骨腫などの骨性腫瘍、転移性腫瘍などが挙げられます。一般的に病巣が深い所にあることが多く、しかも重要な脳神経や血管を巻き込んでいることがあり、症状は、腫瘍の種類や場所によって様々です。

頭痛や視力視野障害、複視(物が二重に見える)、顔面の麻痺や痺れ、聴力障害、嚥下障害、手足の麻痺や痺れなどがあります。良性腫瘍で非常にゆっくり大きくなるものでは、巨大化してもほとんど症状が無いこともあります。一般的に頭蓋底腫瘍は手術摘出が第1選択となり、全摘出を目指しますが、重要な血管や神経を巻き込んでいたり、脳幹部に癒着している場合は、安全(機能温存)のために部分摘出になることもあります。

腫瘍の種類によっては、ガンマナイフやサイバーナイフ、重粒子線や陽子線、トモセラピーなどの放射線治療が非常に有効です。手術で残った腫瘍や手術ができない症例に対しても行われます。

脳血管障害

脳神経外科

脳神経外科医が対応する頻度の多い疾患群の一つが、脳血管障害です。おもな脳血管障害としては、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)があげられます。脳卒中をとりまく状況はここ10年で大きく変わってきており、2018年12月に成立した脳卒中・循環器病対策基本法(「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」)においても、脳卒中診療体制の整備及び充実が本邦の重点課題としてあげられました。特に脳梗塞に対するrt-PA静注療法、機械的血栓回収療法は急性期脳卒中診療においては必須手技であり、またこれらの治療を出血性合併症なく可能な限り早く確実に行うかということがチームとして求められています。脳卒中診療は脳神経外科だけでは無く、脳神経内科、リハビリテーション科、救急部、看護部をはじめとしたコメディカルまで多岐に渡る全ての医療従事者がチームとなることが重要です。また、院内体制整備をはじめ、院外の医療機関との連携体制、救急隊の教育、市民の啓蒙なども重要であり、これらの全てを含めて脳卒中診療です。

また、脳卒中以外にも脳卒中の原因となる未破裂脳動脈瘤や頸部頸動脈狭窄症から、脳血管奇形(脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻など)、静脈洞血栓症などの比較的まれな疾患まで様々な脳血管障害が存在します。

 脳血管障害に対する治療指針として、脳卒中治療ガイドラインが存在しており、標準治療となりますが、脳血管障害に対する医療機器の開発は盛んであり、ガイドラインには記載の無い、最先端の治療も多く存在しています。

当科では、上記のような臨床と共に、血管障害メカニズムを中心とした基礎研究、血管障害に対する医療機器開発も行っています。

当科は脳卒中に対する基幹施設として、急性期治療を含め脳血管障害全般に対して、標準治療を中心に、新たな医療機器を用いた血管内治療、高度な開頭手術、低侵襲な神経内視鏡手術などを積極的に用いて治療を行っています。

急性期治療に関しては、他科、コメディカルを含めた院内体制整備と共に、静岡県西部地区を中心とした院外体制整備にも力を入れております。当科の関連施設でも質の高い治療が患者様に迅速に届けられるように、Drip & Drive法を中心に、Drip, Ship & Retrieve法等も用いています。

脳血管障害は疾患の理解と共に血管解剖の理解が非常に重要であり、これらが治療法の選択に大きな役割を果たしますので、脳神経外科医として基本知識となるこの2つの理解を大事にしたカンファレンスを行っています。これらのカンファレンスの中で、各症例に対して、開頭術・脳血管内治療などの治療方針を、侵襲性、安全性、有効性の観点から検討し決定しています。

昨今は、脳血管障害に対して新しい医療機器の開発も活発に行われており、積極的に治療に取り入れております。代表的な新しい医療機器である脳動脈瘤に対するフローダイバーターステントも行っています。これらの新たな医療機器を含めた血管内治療と共に、開頭術の知識、技術もこれらの若手脳神経外科医にとっては重要ですので、知識・技術ともに基礎から最先端まで幅広く身につけた臨床医を育成することを大事にしながら診療を行っています。

脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に大別されます。脳梗塞は虚血性脳卒中、脳出血、くも膜下出血は出血性脳卒中とも分類されますが、危険因子として生活習慣病が共通です。脳卒中に対する治療は急性期治療と予防治療があり、予防治療の多くは生活習慣管理を中心とした内科的治療が多いですが、未破裂脳動脈瘤や頸部頸動脈狭窄症などの外科的治療が推奨される疾患もあります。急性期治療は以下の通り、各疾患によって異なります。

脳梗塞…ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞に対してはrt-PA静注療法を中心とした薬物療法が中心です。心原性塞栓症に対しては、rt-PA静注療法に加え、機械的血栓回収療法が行われる場合があります。rt-PA静注療法や機械的血栓回収療法に関しては、発症から治療開始までの時間が早いほど、効果が期待されます。逆に治療開始までの時間が経過している場合には、これらの治療が行えない場合があります。

脳出血…降圧療法を中心とした内科的治療が行われますが、脳ヘルニアや水頭症を生じている際には、開頭または神経内視鏡下での血腫除去術や脳室ドレナージ術が行われます。出血源となる疾患(脳動脈瘤や血管奇形など)が存在する場合には治療が行われます。

くも膜下出血…破裂脳動脈瘤などの出血源がある場合には再出血予防のために治療を行い、脳血管攣縮を生じた際には経皮的血管形成術や薬物治療を行います。

各疾患共に症状改善のために継続的なリハビリテーションが必要となることが多く、転院して継続する場合も多いです。

脳卒中の原因となる脳血管障害の代表的な疾患として、1.脳動脈瘤、2.頸部頸動脈狭窄症、3.脳血管奇形が挙げられます。以下にそれぞれの概要を記載します。

  1. 脳動脈瘤: 破裂時にはくも膜下出血を生じます。破裂時、または症候性動脈瘤に対して治療が推奨されます。未破裂脳動脈瘤に対しても大きさ・部位・形状から治療を検討します。治療方法として、動脈瘤頸部クリッピング術、カテーテル治療(コイル塞栓術)があり、いずれも動脈瘤の中に血流が入って破裂するのを予防する治療です。クリッピング術には血管吻合術を併用する高度なもの、カテーテル治療にはコイルにステントを併用するもの、ステント単独(フローダイバーターステント)で治療するものがあります。
  2. 頚動脈狭窄症: アテローム血栓性脳梗塞の原因となる場合があります。症候性の有無や狭窄度によって治療が推奨されます。治療方法として、頸動脈内膜剥離術(CEA)、経皮的頸動脈ステント留置術(CAS)があり、CEAは狭窄の原因となるプラークを除去する、CASはプラークを血管壁に圧着させることで血液の通り道を確保する治療です。これらの手技の選択には、脳血流検査(SPECT)やMRI、超音波検査の結果によって決定をしています。
  3. 脳血管奇形: 脳血管奇形の代表的なものとしては脳動静脈奇形(AVM)、硬膜動静脈瘻(AVF)が挙げられます。どちらも脳梗塞、脳出血などの脳卒中や症候性てんかんの原因となる場合があります。これらを生じた際、または生じる可能性が高い場合、頭痛や耳鳴、目の見えにくさや痛みなどの症状が強い場合に治療適応となる場合があります。治療方法には開頭術、カテーテル治療、放射線治療などがあり、病変の位置や大きさ、病変の状況によって治療方法の決定をしています。

機能的脳神経外科

専門医
neurosurgery

機能的脳神経外科とは、外科的な方法で神経の機能障害を改善したり、神経回路の調節を行う脳神経外科の一分野です。薬によって十分な改善が得られない場合に行われます。対象となる病気や治療法には様々なものがあります。

パーキンソン病、本態性振戦、ジストニアなどの自分の意思と関係なく手足、体が勝手に動いてしまう不随意運動症に対しての治療として、脳深部刺激術(DBS)や、凝固術を行っています。最近では頭を切開せず凝固できる集束超音波治療(FUS)も行われるようになりました。いずれの治療が向いているかは患者さんにより異なり、治療前に詳しい診察や検査が必要となります。

また、脳卒中後や頭部外傷後など脳の一部が障害されると、その部位に関係した体の一部に強い痛み(疼痛)やつっぱり(痙縮)が出てくる場合やことがあります。これらに対して、疼痛には脊髄刺激療法(SCS)、痙縮にはバクロフェン髄注療法(ITB)などが行われます。

顔面けいれんや、三叉神経痛など、頭蓋内で神経が血管により圧迫され、顔の片側にけいれん、痛みなどが生じる神経血管圧迫症候群に対して外科的治療として神経血管減圧術が行われます。

当科では薬剤によるコントロールが困難なパーキンソン病、本態性振戦、ジストニアなどの不随意運動症に対して1)脳深部刺激術(DBS) または 2)凝固術 を行っています。いずれも保険適応の治療ですが、静岡県内では当大学でのみ施行しており、日本定位機能神経外科学会により機能的定位脳手術技術認定施設に指定されています。また、これらの疾患の詳しい原因については未解明の部分も多く、当科ではより良い治療を目指した病態の解明、治療効果の研究も行い、国内外の学会や論文等で成果を積極的に発表しています。

 

脳深部刺激術(DBS):2000年に保険適応となった比較的新しい治療ですが、海外を含めると15万人以上の方が治療を受けています。脳の一部(視床下核、淡蒼球内節、視床腹中間核など)に細い電極を挿入し、胸部皮下に埋め込んだ小型の刺激装置から発した微弱な電流で電気刺激を行うことにより、運動機能障害の著明な改善が得られます。調節性があり、左右両側の治療が可能です。

凝固術: 視床腹中間核などに電極を挿入し、熱を加えることによりその部位を凝固して振戦(ふるえ)などの症状を改善します。薬に先駆けて開発された歴史のある治療で、当大学では1990年代に導入しています。最近再びその効果が注目されるようになり、施行件数が増加傾向です。多くの場合、治療後すぐに症状の改善が見られます。原則的には左右いずれか一側のみの治療となります。

また、顔面けいれん、三叉神経痛などに対する神経血管減圧術(頭蓋内微小血管減圧術)も機能的脳神経外科の一分野です。手術により治癒が期待できる疾患であり、当科でも積極的に治療を行っています。

パーキンソン病は静止時振戦(ふるえ)、無動・寡動(動きが遅くなる)、筋強剛(体がかたくなる)、姿勢反射障害(転びやすくなる)などの運動症状を主体とした疾患です。脳の一部(中脳黒質)のドパミン作動性神経が選択的に障害されますが、詳しい原因はまだ解明されていません。治療方法は薬剤による治療と外科的治療があります。

薬剤による治療: 発症初期には大変有効な治療です。病状進行に応じて投薬量を増やしたり、複数の薬剤を組み合わせて治療を行います。内服薬のほか、貼付剤(はりぐすり)も開発されています。

外科的治療: パーキンソン病発症から5-10年以上経過した場合、薬によるコントロールが困難となることも少なくありません。当科ではそのような方に脳深部刺激術(DBS)を積極的に行っています。パーキンソン病のさまざまな運動症状を改善する大変有効な治療法で、多くの場合で薬の減量も可能となります。ただし、年齢や持病などによりある程度の適応制限があり、実際に手術を行うかどうかは事前に検査を行ったうえで検討しています。他の方法としてL-ドパ持続経腸療法も有力な選択肢となります。

手足や首などの振戦(ふるえ)を主体とした原因不明の疾患です。脳内の神経回路の異常が指摘されています。治療としては、薬剤による治療と外科的治療があります。

薬剤による治療: 内服薬(アロチノロール)が有効とされていますが、症状が進行すると効果が不十分となり、日常生活に支障をきたすことがしばしばあります。

外科的治療: 従来からの視床凝固術に加え、2000年以降は脳深部刺激術も行われるようになり、当院でも積極的に施行しています。2020年より集束超音波治療も保険収載され、当科と連携する病院に導入されました。左右いずれか一側のみの治療であれば集束超音波治療の良い適応ですが、頭蓋骨の骨密度によっては適合しないことがあり、その場合は視床凝固術が行われます。両側の治療を希望される場合は脳深部刺激術(DBS)が行われます。

脳神経の根元が血管などにより圧迫され続けることで、その神経に関係した症状を生じます。外科的治療により治癒が期待できる疾患です。代表的な疾患として、1.三叉神経痛、2.顔面けいれんが挙げられます。

  1. 三叉神経痛: 顔の一部に突然の鋭い痛みが繰り返し発生します。三叉神経が圧迫されることにより生じます。

内服薬: カルバマゼピンなどが有効です。根本的治療ではなく、効果が不十分であったり、内服し続けると効き目が次第に弱くなることがあります。

神経血管減圧術(微小血管減圧術): 全身麻酔で行います。耳の後ろに小さな開頭を行い、三叉神経を圧迫する血管を剥がして神経に当たらない場所へ移動することにより、多くの場合で痛みが消失します。

 

  1. 顔面けいれん: 片側の眼の周りにピクつきが生じ、徐々に頰や口元に広がります。顔面神経が圧迫されることにより生じます。

ボツリヌストキシン注射: けいれんを起こしている部位に注射を行うことによりけいれんを止める治療です。外来で比較的簡単にできる有効な治療ですが、3−4ヶ月ごとくらいに注射を繰り返す必要があります。

神経血管減圧術(微小血管減圧術): 唯一の根本的治療で、三叉神経痛と同様に全身麻酔で行います。耳の後ろに小さな開頭を行い、顔面神経を圧迫する血管を剥がして神経に当たらない場所へ移動することにより、多くの場合でけいれんが消失します。